レポートを読んでいたはずが、長野の大自然がよみがえってきた。
鮨の修行から始まり、介護食、地域おこし協力隊まで。15年かけて様々な食の現場を渡り歩いてきた私が、今AIというツールを手にして気づいたことがある。
AIが「これから来る」と予測するトレンドの多くは、すでに現場で起きていた。
そして時に、「変わらないこと」もまた、トレンドになる。
AIに「2026年の食トレンド」を聞いてみた
ClaudeとChatGPTを使って、2026年の食トレンドをリサーチしてみた。出てきたキーワードはこうだ。
- フードロス削減・B級品の活用
- 素材回帰(超加工食品を避ける動き)
- 地産地消×生産者との直結
- 食のブランディング・パッケージデザインの重要性
どれも「最新トレンド」として紹介されている。
でも私には、既視感があった。
5年前、長野の山の中で見ていた景色
長野県の小さな村で、地域おこし協力隊として働いていた時期がある。
その村は、村全体が農園と言っていいほど、野菜と果物に満ちていた。専業農家だけじゃない。庭先で野菜を育てるお年寄りまで、至るところに生産者がいた。
道の駅のレストランがビュッフェ形式にリニューアルされた。コンセプトは「この村でとれたものを、この村で食べる」。農家さんから直接仕入れ、これまで捨てていたB級品も全部受け入れた。
形が悪い。取れすぎた。傷がある。そんな理由で廃棄されていた野菜たちが、お皿の上に並ぶようになった。
「シンプルが一番うまい」という真実
調理法は、あえてシンプルにした。生のまま、茹でる、蒸す、焼く。お客さんが自分で食材を取り、オリーブオイルと塩で味付けする。
秋に収穫したキノコを、オリーブオイルでグリルして塩だけで食べる。
これが、一番うまかった。
素材の力を信じると、過剰な調理は必要なくなる。熟練の調理師でなくても、誰でも担当できる。それは同時に、持続可能な厨房のあり方でもあった。
AIが「超加工食品を避ける素材回帰」と呼ぶものを、私たちはただ「シンプルが一番うまい」と言っていた。
変えたかったのに、変えられなかったこと
農産加工所では、悔しい思いをした。
昔ながらの漬物、味噌、リンゴジュース。味は本物だった。でも昭和のままのパッケージでは、手に取ってもらえない。
中身は変えなくていい。パッケージを変えるだけで、売れ方は劇的に変わるはず。
参考にしていたのは久世福商店だった。パッケージがブランドになっていて、棚に並んでいれば一目でわかる。食の体験は、味だけで決まらない。見た目・世界観・物語が、購買につながる。
提案した。でも受け入れてもらえなかった。
新しいものへの抵抗感。変わることへの怖さ。その壁は、想像以上に厚かった。
その頃すでに、多くの食品メーカーはパッケージのブランディング改善に動き出していた。その村だけが、取り残されるように昔のままだった。
でも今、こう思う
取り残されることが、やがて武器になるかもしれない。
変わらないことを貫いた村が、「奇跡の村」になる日が来るかもしれないからだ。中途半端にトレンドを追うより、とことん昔のままでいる。それが逆に新鮮に映る時代が、もうすぐそこまで来ている気がする。
昭和のデザインが「エモい」と感じられる時代に、私たちはすでに生きている。
トレンドを追うことが正解とは限らない。「変わらない」という選択が、最大の差別化になることもある。
これもまた、現場で感じた、AIのレポートには載っていない話だ。
料理人の目線とAIの視点が交差するところ
AIは膨大なデータからトレンドを読む。 料理人は現場の体温からトレンドを感じる。
この二つが交差したとき、「なぜそのトレンドが来るのか」という深い文脈が見えてくる。
データは「何が来るか」を教えてくれる。でも「なぜ来るか」「現場でどう使えるか」は、現場を知っている人間にしか語れない。
食の現場で15年積み上げてきたものと、AIという新しいツールを組み合わせると、どんな景色が見えるか。
私はそれを、これから言葉にしていく。
著者:ロビタ|元料理人15年・AI活用ライター 鮨修行・介護食調理・地域おこし協力隊の現場を経て、AIと共に食の世界を言語化する活動をしています。 → みちろぐ:https://michilog.com


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